《グルーヴとリズムの小話集》第4話:「身体が先にリズムを知っている」
メトロノームに身を預けて描いた日のことを、
私はまだはっきり覚えている。
外の一定の拍が、
内側に沈んでいた自分のテンポを
そっと浮かび上がらせてくれた。
その翌日、いつものように筆を持ったけれど、
指先が少しだけ迷った。
“流れに乗る”とはどういうことだろう。
考えた瞬間、拍はすぐにどこかへ逃げてしまう。
そこで私は、
いっそ一度「描くこと」をやめ、
編み棒と手作りパッドを取り出して
軽くドラムの練習をした。
トン、タッ、トン、タッ。
単純すぎて笑えるほどのリズムなのに、
手のひらはすぐに嬉しそうに動きはじめた。
そのとき気づいた。
リズムは“つくるもの”ではなく、
身体が先に知っているものなんだ。
拍が整った手で、
私はふたたび筆を握った。
すると線がするりと動き出した。
形を描こうとするのではなく、
身体に戻ってきたテンポを
“そのまま外に置く”ような感じで。
リズムに“乗る”というのは、
川に流されることではなく、
身体が感じ取った拍に、
こちらが静かに寄り添うこと。
思考はいつも遅刻してくる。
身体はもう拍を知っている。
だから私は、
形を決めようとするのをやめた。
線の行きたい方向を阻まない。
色の選択が「理由」ではなく
“衝動の翻訳”であることを許す。
すると、
世界のほうが私に合わせて
次の拍を置いてくれる。
身体が先にリズムを拾い、
思考がそれを後から追いかける。
【途中のゴッホのアザミの花】アクリル絵の具
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