《グルーヴとリズムの小話集》第3話:「メトロノームという静かなテトリス」
カチ、カチ、カチーー
メトロノームは、今日も一定の歩幅で世界を刻んでいた。
私の心はよく先走る。
未来のリズムを先に拾い、まだ追いついていない「今」の拍を飛び越えてしまう。
だからしばしば、足元のリズムを見失う。
けれど、BPM40のあの音だけは、
どんなときも私を“いま”へ連れ戻してくれる。
意味を主張しない音。
未来も過去も背負わず、ただまっすぐ鳴る音。
その単調さの中で、
私はようやく自分の拍と再会する。
リズムは、積み木のように並べるものではなく、
テトリスのように“今日の形をそのまま落とす”ものなのだと気づいた。
綺麗に揃えようとすると、むしろ崩れる。
歪んでいても、不格好でも、
置いた瞬間、それは今日のリズムとして正しくなる。
拍を取り戻すとは、
完璧な1拍を目指すことではなく、
戻ってくるための小さな“入口”を自分に渡しておくことだった。
BPM40はその入口の一つ。
深呼吸もそう。
一筆の線でもいい。
手を洗う水の音でもいい。
私は今日、拍のテトリスをひとつ置いた。
それが美しい形かどうかは関係ない。
ただ、“ここにいる”という実感が、
そっと積み重なっていく。
明日もきっと、
私はまた未来へ先走る。
それでいい。
拍が乱れても、戻る技術を知っているから。
カチ、カチ、カチーー
その音のように、
私は自分のテンポへ帰っていく。
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